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ボサノヴァの神様”に会いたくて──ブラジルに渡ったジョルジュ・ガショ監督が自らの旅路とその記録を振り返る

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ドイツ人ライターの遺志を継いで綴った音楽ドキュメンタリー

1958年にジョアン・ジルベルトはブラジル音楽に革命を起こした。その独特な歌い方やギター奏法によってサンバの新しいスタイルを編み出し、ブラジル音楽の方向性や解釈にも大きな影響を与えたんだ。つまり現在のブラジル音楽があるのはジルベルトのおかげと言っても過言ではないよ。

これまで私はクラシック音楽に関する多くの映画を作ってきた。それがこうした音楽ドキュメンタリー映画を作ることになったのは、モントルー・ジャズ・フェスティバルでマリア・ベターニアという素晴らしい歌手に出会ったことがきっかけ。

彼女の歌う姿に感銘を受け、彼女の映画を撮るため2003年に初めてブラジルへ渡り、すっかりブラジル音楽に魅了されてしまった。そんな中で、ジルベルトに会いたいと思うようになったんだ。なぜなら彼こそがブラジル音楽を語るにふさわしい人物だからね。

この作品は、2008年から公の場に姿を見せなくなったジルベルトを探し出そうとした、ドイツ人ライターのマーク・フィッシャーの足取りを辿るような形で構成している。しかし彼は実際にジルベルトに会えず、その旅路を綴った本が出版される直前に自殺してしまった。そこで私は「彼の言葉で語り、彼がやろうとしていたことを完結させよう」という使命感に駆られたんだ。

ボサノヴァの世界観“サウダージ”を映像に刻み込む

奇妙なことに、ブラジルで作業していた4年の間「ジルベルトは生きていないんじゃないか」という感覚に陥ったよ。周りの人たちが彼の恩恵を受け続けるために真実を隠しているような気がして、本当は亡くなっているに違いないと思ったんだ。だって、通りの向こうに住んでいるはずなのに会えないんだから。

作品に漂う静かで悲しげな雰囲気は、ボサノヴァの歌詞にも使われる“サウダージ”を表現したものなんだ。“サウダージ”とはノスタルジーと喪失感を合わせたような意味を持っていて、日本語ではどうか分からないけど英語に該当する言葉が見当たらないかな。

ボサノヴァというのは本来は苦しみを表現し、自分の人格や感情がテーマ。そんなボサノヴァの音楽が脚本のようなものだから、決して手に汗握るような映画ではない。ボサノヴァを考察し、その音楽の本質に迫る作品なんだ。

日本の皆さんにはこの作品を通してジルベルトが作った音楽を伝えたい。そして、フィッシャーや私自身のジルベルト探しの旅を通して、ブラジル音楽をより理解してほしい。音楽を難しくとらえるのではなく、作品に登場する人物との関係性によって、音楽そのものを楽しんでもらいたいんだ。この作品を見れば実際にそういう体験ができると思うから。そしてぜひ“サウダージ”という世界観を味わってほしい。

(映画監督 ジョルジュ・ガショ)

movie info

作品名
『ジョアン・ジルベルトを探して』(2018年)
監督
ジョルジュ・ガショ
出演
ジョアン・ジルベルト/ジョルジュ・ガショ
公式サイト
http://joao-movie.com/
2019年8月24日(土)ロードショー

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