film talkfilm
talk

クリス・ペプラーが「良い死」をテーマにお気に入り映画3本をセレクト

#SPECIAL
  1. TOP
  2. FILM TALK

現実世界の崩壊から“旅立ち”へと至る『ジェイコブス・ラダー』

主人公が最後に英雄的な死に方を迎える映画はたくさんあります。それに対して今回テーマに選んだ「良い死」とは、その人が自分なりの結論を見出し、1つの決着ポイントに到達して果てるというもの。そうした観点から選んだお気に入り映画の1つが『ジェイコブス・ラダー』です。

私はベトナム映画を好んで見るのですが、この作品もベトナムの戦場で悲惨な体験をした青年ジェイコブが主人公。無事に生還し郵便配達員として日常の暮らしを送っていく中で、彼の現実世界はどんどん魔界に変わっていきます。例えば、ジェイコブがストレッチャーに乗せられて病院に運ばれるシーンでは、廊下を進むごとに地獄のような光景に…そうした現実世界が崩壊していく描写が面白かったです。

ジェイコブ役のティム・ロビンスはそれまでコメディ映画への出演が多い俳優でしたが、この作品をきっかけに演技派として認められました。男から見ても「可愛い」と思える、子犬チックなところが彼にはありますよね。

そしてジェイコブもティム・ロビンス本人のように、どこかセンチメンタルなキャラクター。心にポカンと傷が空きながら日々生きているという“本当には生きていない”ような状態が続き、最終的にはとても恐ろしい体験をします。でもそれが1つのきっかけになって吹っ切れるようになり、次のステージへ向かう準備が整う──つまり彼にとって“旅立ち”となるわけです。

死の直前に訪れる誘惑への葛藤を描く『最後の誘惑』

マーティン・スコセッシ監督の作品の中で一番好きなのは『最後の誘惑』。スコセッシは人間の葛藤を描くのがとても上手で、この作品でも悪魔に「普通の人間として人生をまっとうしたらどうだ?」と誘惑されるキリストの葛藤に迫っています。

磔にされたキリストが「こんな死に方は嫌だ。やっぱり普通に生きたかった」と思った瞬間、まったく別の世界へとワープ。磔から降ろされ、彼女が出来て、結婚して子供が生まれ、気づけば老人になっているのですが、そこでまた「やっぱり神の子の方が良かったかな」と悩む。

そしてその瞬間、再び磔の状態へと戻り「良かった。やっぱり俺の死に方はこうだ」と納得し、キリストは爽快な“良い死”を遂げるのです。

このように物語はとてもヘビーなのですが、映画自体はとても明るくて見やすい。あまり闇を映さず自然光を使い、キレイな明かりで映像を見せているからです。そうした明るさがヘビーなテーマと対比されていて、いいバランスを築いています。

勇敢ではなく悦びの死を迎える『サンシャイン2057』

宇宙船の中を舞台にした映画というのは、独特の雰囲気があります。敵と戦ったり船体を修理していない限り、こうした作品は船内で宇宙飛行士たちが会議をするシーンが多い。そこでは複数の人間が同じ場面で話すため、会話のリズムやタイミングが重要になるのですが、『サンシャイン2057』はそのタイミングが絶妙!

そして配役も絶妙で、なかでもミシェル・ヨーはカンフーのうまい人というイメージが強いと思いますが、それ以上に芝居が上手。彼らが繰り広げる会話劇は見ごたえ満点ですよ。

宇宙を舞台にした映画で描かれる死というのは、『アルマゲドン』などのように任務の過程で否応なく迎える死が一般的。それに対してこの作品では、地球を守るために核爆弾を乗せた宇宙船ごと太陽に突っ込むのですが、それによって人類や家族が救われるのだからまさに“良い死”。死に臨む不安も打ち消すような、死=悦と思える描き方が面白かったですね。

profile

クリス・ペプラーChris Peppler

主な出演番組

『TOKYO HOT 100』(J-WAVE)

『モンタージュ 三億円事件奇譚』(フジテレビ)など

主な映画イベント司会

『ミッション:インポッシブル/ゴースト・プロトコル』

『東京国際映画祭メディアセレクション』など

NEW ARRIVAL