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認知症の父と新たな絆を育んでいく、家族の7年間──中野量太監督が「家族」を撮り続ける理由を語る

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初めて小説の映画化に挑んだ理由

私はこれまでの作品において、例えば「父親を亡くしてさあどうするか」といった、厳しい現状に置かれた人たちのおかしみや愛おしさを描いてきました。

今回、初めて小説の映画化に挑んだ『長いお別れ』のテーマは認知症。ただの悲しい小説なら映画化することはありませんでしたが、認知症を患った父親の家族たちが一生懸命やればやるほどにじみ出る滑稽さや温かみに、強いシンパシーを抱きました。「自分ならこう撮る」「こう描けば面白い」と考えながら読むことができたのも、まさしく自分の感性に合ったからでしょうね。

そうして映像化することを前提で小説を読みながら、2つの取り決めが頭に思い浮かびました。まずは、ボケはじめ、認知症の進行…と物語を4つの時代に分けて描くこと。もう1つは、親・娘・孫の3世代で描くこと。こうした構図が決まってから、映画の骨子がはっきりと固まりました。

原作者の中島京子先生からは「自由にやってください」と言っていただきましたが、ただ1つお願いされたのは「原作が持つおかしみだけは失わせないでください」ということ。

他にも細かいことをいろいろアドバイスしていただいたのですが、現代の考え方において認知症は“家族のことを認識できなくなるのは当たり前”と思われている病気なので、「なんで家族のことが分からなくなるの?なんて描き方は古いですよ」と言われました。「なるほど!」と納得し、おかげで曖昧だった認知症の描き方に迷いがなくなりました。

病気だから忘れるのは当たり前。でも大切なものは消えない──。それが物語のテーマであり、自分の中でのテーマにもなりました。

認知症=「悲しい」ではない新しい認知症映画

家族の映画を撮影する前に、いつも「どうすれば家族として見えるのだろう?」と考え、いろいろ工夫しています。

『長いお別れ』は、父親の70歳の誕生日会に招かれた娘たちが、母親から認知症について告げられ驚くシーンで幕を開けます。ならば、父親がまだボケていない“楽しかった誕生日会”を俳優たちが知らないと、父親がボケた衝撃は分からない──そう思い、67歳の父親の誕生日会を開くことにしました。

当初から父親役の候補には山崎努さんがいて、縁があって一緒に仕事をすることになったところ、脚本をすごく気に入って私のことも信頼してくださいました。

最初は「天下の山崎努と渡り歩けるのだろうか?」と心配していましたが、その信頼が私にとって最大の武器になり、臆せずに演出できました。また山崎さんが「中野の言うことだったら聞くよ」といった雰囲気を作ってくださったのもとても大きかったですね。

私は早くに父親を亡くし母親に育てられ、「これが家族」といえる環境を知らないまま大きくなりました。そのぶん「家族って何だろう?」と思いながら過ごし、そうした思いを映画で撮り続けているのでしょう。

もちろん、「これが家族」という答えがないのは分かっているので、そんなことを描くつもりは最初からありません。こんな家族やあんな家族があって、そこにはそれぞれの愛があるんだ、ということは描きたいと思っています。

また今回は「今の時代の新しい認知症映画を作ろう」というテーマを掲げて撮影しました。それは認知症=悲しい・辛いだけではなく、おかしみがあり温かくなれるような内容こそが現代の認知症映画じゃないかなという思いがあったからです。

だから「暗そうな映画だな」と思いながら見るのではなく、認知症を通して人間の温かみや家族のおかしさを感じ取っていただきたいですね。

(映画監督:中野量太)

movie info

作品名
『長いお別れ』(2017年)
監督
中野量太
出演
蒼井優/竹内結子/山崎努
公式サイト
http://nagaiowakare.asmik-ace.co.jp/
2019年5月31日(金)ロードショー

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