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“生きる伝説”クリント・イーストウッドが6年ぶりに俳優復帰!伝説の運び屋となった老人の実話

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イーストウッドならではの演出で魅せる人間ドラマ

この物語は、90歳の園芸家がなんとコカインの運び屋だったという実話です。
ユリを作ってきた主人公アールのビジネスはネット販売のあおりを受けて破綻し、なおかつ仕事に没頭しすぎて家族との関係は疎遠。そんな八方ふさがりの状態の中、莫大な報酬と引き換えにある物を運んでくれないかという依頼が入ります。

運ぶ物の中身が気になって開けてみるとコカインだった──というところから話はエスカレートしていきます。元々アールは園芸家として全米を移動していたから車の運転に慣れているし、警察もまさか90歳の園芸家がヤバイ物を運んでいるなんて思わない。つまり皮肉なことに運び屋はアールにとって天職となります。

この作品はクリント・イーストウッドにとって『グラン・トリノ』以来10年ぶりとなる監督・主演兼任作で、アール役に扮するイーストウッドの演技の面白さがポイント。運び屋組織の若者に対して人生について説教したり、麻薬カルテルのボスの邸宅に招待されて女遊びをしたり、悪いことをしているけど飄々と楽しんでいるふうに映ります。

またアールは退役軍人という役どころなので、どんな危機でも堂々としているわけです。確固とした考えを持って物事に対処し、なおかつその姿がチャーミングに見えるというのは、『グラン・トリノ』もそうですがイーストウッドならでは。つまりこの役はイーストウッドにとっても天職と言えるでしょう。

実際、イーストウッド自身は88歳でアールと同年代。久しぶりに俳優として見た彼は、顔のシワは深くなり、後ろ姿を見ると歩くのもおぼつかなさそう。でも、そうした老いも俳優としての魅力にしてしまっている。間違いなく現役最長老の売れっ子俳優であるイーストウッドの“俳優としてのブレない魅力”を再発見できますよ。

最近のハリウッド娯楽映画は3分に1回は展開が変わり、画面の中にもたくさんの情報が詰め込まれています。それはそれでゲーム感覚として楽しいのですが、イーストウッドの映画には昔も今も変わらずゆったりとした時間が流れています。そして1枚1枚絵を重ねていくような演出が施され、最後には分厚い本のようになる。

そしてその“本”からは、人生で何が大切かということや、善悪の価値判断は簡単なことではないというメッセージが伝わってきます。そうした映像体験は今ではなかなかできないので、ぜひご覧ください。

(映画ライター清藤秀人)

イーストウッドが自身を投影させた役柄

運び屋を任される主人公アールは、最初は自分が何を運んでいるのか分からないのですが、ある日ふと中身を見ると麻薬が入っていることを知ります。仕事の回数を重ねるうちに麻薬を運ぶ量も報酬金額もエスカレートし、彼は羽振りが良くなって金銭感覚もおかしくなっていく。

それと並行して麻薬捜査が行われるのですが、まさか90歳のおじいちゃんが大量の麻薬を運ぶなんて思いませんよね。

そうした2つの物語が進行していく中で生まれるすれ違いが面白い!それぞれの物語は単体だと平凡に感じられますが、やがて2つの物語が交錯することで急展開が生まれ、目が離せなくなりますよ。

自ら監督を務めて自身の製作会社が手がけることによってキャスティングに自由が生まれ、クリント・イーストウッドは自分の娘アリソンを主人公アールの娘役に起用しています。アールの娘が父親に対して本気で怒るシーンは、演じているのがイーストウッド親子ということを知った上で見ると「実の家族だから、演技を超えて本気で怒れるんだな」と実感できて面白い。

また、イーストウッドも若い頃は女癖が悪く、仕事熱心で家庭を顧みないというところがあったので、けっこう自分自身をアール役に反映させているなと感じさせますよ。

(映画コラムニストジャンクハンター吉田)

movie info

作品名
『運び屋』(2018年)
監督
クリント・イーストウッド
出演
クリント・イーストウッド/ブラッドリー・クーパー
公式サイト
http://wwws.warnerbros.co.jp/hakobiyamovie/
2019年3月8日(金)ロードショー

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