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理不尽な人種差別に引き裂かれる一つの純愛…『ムーンライト』の監督が紡ぐ社会派ラブストーリー

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ラブストーリーの中で描かれる人種差別

この作品は1970年代ニューヨークのハーレムを舞台に、無実の罪を着せられた黒人青年ファニーと、彼を救おうと身重の体で頑張る19歳の恋人ティッシュとの愛を描くラブストーリーです。悲劇的な状況で愛する気持ちが試されていく中、ますます深まっていく彼らの絆にとても感動させられます。

主人公が無実でありながら、若い2人だけでは対抗しきれない大きな力が働いてきます。それは人種差別。見ていて「どうしてこんなことが許されるの?」という怒りが湧いてきます。もちろん今だったら許されないことですが、1970年代は公民権運動が一定の成果を挙げた後であるものの、まだまだ黒人の人権は確立されていませんでした。何もしていないのに逮捕されたり警察官に殴られたり…まさに悲劇ですね。

ティッシュのモノローグという形でフラッシュバックによって語られていく2人の愛の軌跡、つまり過去。そして現実に起きている事件がどのように解決していくかを描く現在。それぞれの時間軸が交錯しながら描かれていく構成がとても効果的です。現実の厳しさと、愛する2人の甘い関係──ビター&スウィートがめまぐるしく展開するので、次は何が起きるんだろう?と興味を惹かれますよ。

(映画ライター 山懸みどり)

驚異の新人女優と演技派キャストの熱演

ヒロインのティッシュを演じるキキ・レインが、思わず見とれるぐらい可愛い! 1970年代のファッションを着こなす彼女を見ていると、物語自体は過酷なのに「スウィート!」という印象をずっと持つ、なんとも面白い状況になります。彼女はオーディションで役を得た新人なのですが、これからもっと伸びる女優だと思いますよ。

さらにこの作品が力強い印象を与えるのは、ヒロインの母親役を演じたレジーナ・キングの存在感もあってこそ。19歳で未婚の母になるという娘の状況を、彼女は全身全霊で受け止めて応援してあげます。その姿は多くの女性の顔を多角的に表現していて、まさに母性の象徴と言っても過言ではありません。

監督は前作『ムーンライト』で同性愛をテーマに描いたバリー・ジェンキンズ。彼の撮り方が新しいと思ったのは、社会問題そのものに触れるのではなく、主人公たちの感情に寄り添うことで彼らのアイデンティティーを表現し、スウィートなラブストーリーで表現していくという手法。1970年代のニューヨークを舞台にした今回の作品でも、激しい人種差別の中を生き延びていく恋人たちのラブストーリーという、相反する両極端な要素をバランスよくまとめていて、とても新しさを感じさせてくれます。

原作者のジェイムズ・ボールドウィンは、キング牧師らと一緒に公民権運動で活躍した黒人作家。彼はアメリカで生まれ育った黒人たちのアイデンティティーにフォーカスした作品を数多く執筆していて、この作品にもそうした色合いを強く出す一方で、ラブロマンスというスウィートな視点を加えています。映画では人種差別という重いテーマに心を揺さぶられながらも、見終わった後は幸せな気持ちに包まれる内容に仕上がっていますが、このあたりはバリー・ジェンキンズ監督の資質によるところが大きいでしょう。

監督の人間的な優しさや、人と人との絆が困難を乗り越えていく力になると信じている視点が物語に投影されることで、優しいラブストーリーとして見終えることができるのだと思います。

(映画評論家 立田敦子)

movie info

作品名
『ビール・ストリートの恋人たち』(2018年)
監督
バリー・ジェンキンズ
出演
キキ・レイン/ステファン・ジェームズ
公式サイト
http://longride.jp/bealestreet/
2019年2月22日(金)ロードショー

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