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ナチス将校の軍服の力で“独裁者”と化す!権力を手にした脱走兵の恐るべき変貌を描く実話サスペンス
実話を基に、身近に存在する権力構造の闇を描く
この作品は、ナチスドイツがもうすぐ滅びようとしていた1945年の1カ月間を描いています。主人公の少年は脱走兵なのですが、たまたま見つけたナチス将校の制服を着て逃げようとしたところ、味方に見つかり仕方なく将校の振りをするうちに身も心も成りきっていくのです。
その中で特徴的なのは、将校に成りきった主人公が、脱走兵を収容した施設に趣くシーン。そもそも主人公も脱走兵のはずなのに、彼は他の脱走兵たちを粛清するのです。
ヨーロッパは国々が隣接しているため様々な民族が出入りしますが、難民など自国以外の人を排除しようとする傾向にあります。こうした行動が行き過ぎると、かつてのナチスドイツのような排斥運動が起きるのでは、という畏怖が描かれています。それはやはり改めて考え直さなければいけない問題だろう、ということでこの作品が生まれたのではないでしょうか。
主人公の少年はもともと戦争が嫌になって脱走したのに、自分が将校の側になってだんだん権力を手にしていくと、力のない人たちを粛清していく。つまり、本来の自分はそんな性格ではなかったのに、いざ権力側に立つとそうした人間でさえ粛清を是とするようになるという恐怖が描かれているのです。この物語を現代に置き換えると、人々が極右思想に引き寄せられていくのはナチスドイツと似たような状況なのではないか、とさえ感じられます。
そして少年がどのような結末を迎えるのか、という歴史的事実をぜひ見届けてください。過去にこうした出来事が実際にあり、そして今のヨーロッパや日本でも起こりうるんじゃないかと思わされる、まさに今見るべき映画です。
(映画評論家 松崎健夫)
“独裁者”に変貌を遂げる様を戦慄の映像で魅せる
タイトルを聞くとメルヘンチックな童話をイメージしがちですが、この作品は実話を基にしていて、実はかなり硬質で怖い物語です。脱走兵ヘロルトがナチス将校の制服を手に入れて周りを騙していくのですが、何者でもなかった若者が成り上がっていく痛快さや、正体がバレるんじゃないかというスリルを味わう映画ではありません。
将校に成りきったヘロルトがどんどん残虐になっていき、かつて自分と同じ立場にあったはずの脱走兵を虐殺したり、乱痴気騒ぎを起こしたり、町に出て民衆を公開処刑していくといった変貌ぶりが描かれています。
主人公を演じているのはドイツで活躍中の若手俳優マックス・フーバッヒャー。本当に小柄かどうか分からないのですが、『ちいさな独裁者』というタイトルが表わすように、周囲の役者たちが大柄なため彼の小柄さが特徴づけられています。
個人的には、ナインティナインの岡村隆史さんの若い頃に体格や声がそっくりだなと思いました。そのせいか、遠くの国の昔話を見ているような感覚ではなく、物語に親しみが湧くと同時に主人公の冷酷さをより強く感じられました。
(映画ライター 大山くまお)
movie info

- 作品名
- 『ちいさな独裁者』(2017年)
- 監督
- ロベルト・シュヴェンケ
- 出演
- マックス・フーバッヒャー/ミラン・ペシェル
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