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映画系メディア 中の人に聞いてみた。第2弾 「シネマトゥデイ」 下村麻美編集長

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映画ファンが日々チェックしている情報サイトや雑誌の裏側を紹介する企画「映画系メディア 中の人に聞いてみた。」第2弾は、「映画情報を毎日更新」をモットーに、新作映画の情報から映画スターのニュースやインタビューまでオリジナルコンテンツを豊富に揃える「シネマトゥデイ」 の下村麻美編集長にインタビューします。

ターゲットを限定せず、幅広い映画ファンが気軽に読める情報サイトに

─シネマトゥデイが誕生してから何年になりますか?

「前身の「FLiXムービーサイト」を含めると18年になります。もともとは月刊映画雑誌「FLiX(ビジネス社)」の公式サイトとしてスタートし、2006年から「シネマトゥデイ」に名称を変更しました」

─当初は雑誌の公式サイトだったのですか。どうやって現在のようなサイトに変わっていったのですか?

「FLiXムービーサイトの頃から、雑誌記事の紹介だけでなくハリウッドのゴシップ情報などオリジナルの映画記事を配信していました。やがてサイト独自のユーザーが増えていく中、日々更新するWebサイトが月刊サイクルの雑誌とコンテンツで足並みをそろえるのは、その頃増えてきていたWebの読者のニーズとも合わないと思うようになり、雑誌の公式サイトとしてだけではなく次の段階へいくべきだと感じるようになりました。そうして雑誌とサイトを別々に切り離し、独自に運営していくことになったのです。ただ現在も月刊FLiXのバックナンバーを販売していたりしてその役割はほんの少しですが続いています」

─独自運営にあたってシネマトゥデイが目指したコンセプトは?

「私自身がそうなのですが、世の中の映画ファンは“専門的な知識にそれほど詳しくないけど映画が好き”という層が大多数だと思っています。そうした人たちが映画の情報を欲しい時、気軽に読めるサイトであるよう努めています」

─マニアよりも比較的ライトなファン層を意識しているということですね。

「マニアックな視点を盛り込んだ特集記事も作成しますが、詳しい知識を持つマニアしか楽しめない内容にならないよう意識しています」

─映画マニアが好むような名作系はシネマトゥデイで取り上げないのですか?

「マニア受けする“知られざる名作”をそのまま紹介するだけでは、シネマトゥディのメインユーザーの目には留まりづらいですが、エンタメ系の話題作と関連するような形で紹介すれば関心を持ちやすいはず。そうやって鑑賞する作品の幅が自然と広がるような伝え方によって、映画好きがもっと増えていくことが理想ですね」

─他にも、ライトなファン層により深い映画の魅力を伝えようという工夫はしていますか?

「映画を見ているうちに誰もが抱く興味や疑問を、さらに深掘りできるようなコンテンツを心がけています。例えば『ヴェノム』では、“このキャラクターのマーベルでの立ち位置は?”“いつ誕生したキャラクターなのか?”などの素朴な疑問に応えられる解説記事を作りました」

─その中でも最近反響が大きかった記事はありますか?

「映画ではないのですが、ここ数年は海外ドラマ『ウォーキング・デッド』の人気が高まっていて、ドラマにそれほど詳しくない人向けにメインキャラクターを一人ずつ紹介する記事は反響がありました。あと、2020年公開予定のスーパーヒーロー映画を紹介する記事など、気になる映画情報をまとめてチェックできるコンテンツはよく読まれますね」

─海外ドラマの紹介にも力を入れているのですか?

「映画が好きといっても、よほどのマニアでない限りドラマなど映画以外のエンタメ情報にも興味を持ちますから。そうした広い意味での映画ファンが知りたいコンテンツ、例えば地上波や動画配信サービスで人気のドラマ紹介など幅広く揃えるようにしています」

─編集長が特に注目している作品はありますか?

「『ウォーキング・デッド』は私も大好きで、“まさか”の展開に毎週クギづけです。他にも米ケーブル局HBOの『ゲーム・オブ・スローンズ』や『ウエストワールド』にもハマって、毎日帰宅したら海外ドラマを2時間鑑賞しています」

映画ファンの興味を引く“見出し”にこだわる

─シネマトゥデイの制作メンバーはどのような構成ですか?

「社内のスタッフ約23名と外部の映画ライターで制作しています。日々更新するニュース記事は社内スタッフが主に担当し、映画評や深い分析が必要な特集記事を各分野の専門的な映画ライターに依頼することも多々あります」

─その中で編集長が担っている役割は?

「シネマトゥデイで公開してよい内容かどうか、記事の中身を確認することですね。記事の分かりやすさや公正さはもちろんですが、記事の肝となる見出しは特に注意してチェックし、自ら手直しすることもあります」

─記事の見出しはそんなに重要なのですか?

「どんなに読みごたえのある内容の記事でも、例えば俳優名や作品名をメインに掲げるだけの見出しだと、それらの固定ファンしか興味を示してくれません。でも、もっと広く興味を持ってもらえそうなキーワードを加えることで、アクセス数が大きく変わることがあります。なので、記事の公開後でもアクセス数が低い場合は、見出しやキャッチ画像を差し替えてテコ入れします。ほんのひと工夫でアクセス数が変動することは、Webサイトならではの面白さですね」

─そうしたWebサイトの面白さとは逆に、Webサイトだからこそ大変なことはありますか?

「雑誌のように“入稿して本を出版すれば終わり”という線引きがないことですね。記事の制作中は『何かやり残していないか』『コンテンツを作り漏らしていないか』と常に注意したり、公開後もアクセス数に応じて記事を検証・改善して次回の記事では改善していく必要があります。いつでも掲載することができて常に情報が更新されるWebサイトの制作には明確な“終わり”がないので、心の休まる時がありませんね」

─広い裾野の映画ファンが読みやすいサイトを実現するにあたって、他にも心がけていることはありますか?

「映画に詳しい人間が記事を作ると、ライトなファンには用語や文章の意味が分からないことがありえます。そこでスタッフに心がけてもらっているのは、『年に1~2回映画を見に行くぐらいの人、例えば自分の親が読んでも意味が分かるか?』という観点から記事をチェックすることです」

─幅広い映画ファンのニーズやトレンドのリサーチで何か実践していることはありますか?

「自分の好みでは見ないジャンルの映画をチケットを自腹で買って劇場にあえて見に行き、どんなファンが興味を示しているのかチェックしています。試写会に行った作品でも劇場で改めて見ると、実際の客層や感想を生で体感できて面白いですね」

若者が映画に親しむきっかけとしてYouTubeチャンネルを強化中

─従来と比べてシネマトゥデイのコンテンツ構成は変化していますか?

「洋画人気が高かった頃はコンテンツの80%が洋画でしたが、近年は興行ランキングで邦画が上位を占めていることからも分かるように、圧倒的に邦画が人気。メインターゲットである“広い裾野の映画ファン”のトレンドの変化に応じて、邦画の情報を増やすようコンテンツをシフトチェンジし、現在に至っています」

─他にもユーザーの嗜好の変化に合わせて新しい取り組みを行うようになりましたか?

「最近の若者たちはTVを見るよりも、WebサイトだったりYouTubeなどの動画を見る時間が多いそうです。そうしたユーザーにも映画の情報が届けられるようYouTubeチャンネルを開局し、フォロワー数が間もなく100万に達する勢いです。最近は映画の予告編動画の配信だけでなく、映画に関連したゲストを招いての『シネマトゥデイ・ライブ』というYouTubeでの生放送などオリジナル番組の制作にも力を入れています」

─動画とWebサイトでコンテンツの性質は変わってきますか?

「YouTubeチャンネルは『幅広い人たちにいろいろな映画を見てもらう』というシネマトゥデイの目標を実現するためのツールであり、コンセプトはWebサイトと同じ。ただ、Webより若干視聴者の年齢層が若めです。」

─いずれはシネマトゥデイの情報発信が動画中心になることもありえますか?

「そうなるかもしれませんが、いまの時点では断言しがたいですね。Webの世界では状況が日々変わっていくので、シネマトゥデイは、ユーザーさんのニーズ合わせて変化していきたいと思います。ただ、SNSなど短文の見出しだけで満足せず実際のシネマトゥデイ記事本体も読んでいただけるよう、ユーザーの知的好奇心を刺激するような内容を心がけていきたいと思います」

─今後シネマトゥデイが目指すものは?

「近年は地上波で放送される映画が減り、かつて私たちが小さい頃に見ていた日曜洋画劇場のような、映画に慣れ親しむ機会が限られています。そんな今だからこそ、日曜洋画劇場のように“映画を見るきっかけ”の役割をシネマトゥデイが果たせたら素敵ですよね。そのためにも、幅広い映画ファンが集いたくなるサイトとして今後も充実させていきたいと思っています」

「映画系メディア 中の人に聞いてみた。」第2弾インタビューはいかがでしたか。シネマトゥデイに多彩なコンテンツが充実しているのは、毎日のように映画を見る人から、劇場に足を運ぶのは年に一度だけの人まで、幅広い層の映画ファンが楽しめるサイトであり続けるためだったんですね。

映画への興味を抱く入口としてシネマトゥデイが“日曜洋画劇場のような役割”を果たしてくれたら、同じ映画を愛する者としてこんなに嬉しいことはありません。

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