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ギレルモ・デル・トロ監督特集vol.01《11のキーワード&人物相関図》

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ギレルモ・デル・トロを解き明かす11のキーワード

メキシコに生まれ、幼い頃からあふれんばかりのファンタジー世界に親しみ、やがて特殊メイクの世界から映画界入りしてハリウッドにも進出。ダークで異色なファンタジー映画を発表し続け、ついに『シェイプ・オブ・ウォーター』('17)でアカデミー賞作品賞など4部門を制覇したギレルモ・デル・トロ監督。その独自の世界観を紐解く要素のいくつかをご紹介していきたい。(映画文筆:増當竜也)

© 2017 Twentieth Century Fox Film Corporation. All rights reserved

1. メキシコ映画界

「当時のメキシコ・ホラー映画の大半は時代遅れではあれ、恐れることなくさまざまなジャンルを混ぜ合わせていた。それが後の私に多大な影響をもたらすことにもなりました」

メキシコ映画界は戦前にソ連セルゲイ・エイゼンシュテインの訪問や、スペインから帰化したルイス・ブニュエルなどの功績もあって栄えていくが、1960年代から70年代にかけてはホラー映画やアクション映画を量産。チリ出身のアレハンドロ・ホドロフスキーが血と異形のカルト映画『エル・トポ』('70)などをメキシコで発表したのも1970年代。

1964年10月9日にメキシコ・グアダラハラに生まれ、'60~'70年代に多感な少年期を過ごしてきたギレルモ・デル・トロはそれらの影響を受け、伝統を継承していると思しい。

2. 3(スリー)アミーゴス・オブ・シネマ

「私たち3人には、兄弟のような絆があります」

メキシコ映画界は1990年代に入り、ヌエーヴォ・シネ・メヒカーノ(新しいメキシコ映画)と呼ばれる映画運動が勃興。1993年に『クロノス』で映画監督デビューを果たしたデル・トロもその一環を担った。

また彼は同世代のアルフォンソ・キュアロンやアレハンドロ・ゴンサレス・イニャリトゥとともに、2007年にチャチャチャ・フィルムズを立ち上げている。今では“3(スリー)アミーゴス・オブ・シネマ”と呼ばれる彼ら、すべてアカデミー賞監督賞を受賞しているのも驚異的である。

3. 新進発掘

「今のあらゆる状況を変えようとしているのは若い人たちです。夢は実現します。切り開いて、中に入ってきてください」

デル・トロは自身がプロデュースする作品に、新進気鋭の監督を積極的に起用。『永遠のこどもたち』('07)で長編映画デビューしたJ・A・バヨナ監督はその後『ジュラシック・ワールド/炎の王国』('18)に、『MAMA』('13)でデビューしたアンディ・ムスキエティ監督は『IT/イット“それ”が見えたら、終わり。』('17)に、それぞれ大抜擢された。

『スプライス』('08)では『キューブ CUBE』('97)で注目されたカナダのヴィンチェンゾ・ナタリ監督を招聘。近年は「アニメキシコ奨学金」や「ジェンキンス=デル・トロ・インターナショナル補助金」といった奨学金制度を設立し、メキシコの若く才能あるクリエイターの支援にも乗り出している。

4. KAIJU

「西洋と違って日本の怪獣はヒーローにも悪役にもなり、しかも人々から愛されています。そこが素晴らしいし、何よりも美しい!」

メキシコでは古くから日本の特撮&アニメ番組が放送されており、幼き日のデル・トロはそれらに魅せられ、多大な影響を受けて育った。「僕もラフカディオ・ハーンのように、何年という単位で日本に住んでみたい」と希望するほどの日本文化のファン。

デル・トロが自分の創作の原点として真っ先に挙げる特撮作品は『ウルトラQ』と『ウルトラマン』で、バルタン星人やピグモン、カネゴン、レッドキングなど好きな怪獣も多数。円谷英二の特撮をこよなく愛する。『パシフィック・リム』シリーズに登場する敵クリーチャー群を“KAIJU”と命名したほどである。

5. アニメーション

「ミヤザキ様の『風立ちぬ』なんて、まさに力強い大人のドラマでしょう」

宮崎駿監督のことをデル・トロは「ミヤザキ様」と呼ぶ。特撮同様に、日本のアニメにも精通。『鉄腕アトム』『鉄人28号』『スカイヤーズ5』など1960年代草創期の日本TVアニメから、永井豪原作の70年代ロボット・アニメ群。また押井守監督のファンで『パシフィック・リム』のプロットやメカ造形などに『機動警察パトレイバー』が大いに参考になったとのこと。

「日本のアニメはテーマやストーリー展開が、世界の他のどの国のものと比べても独創的です。また、日本のアニメにはリズムがあります。メロドラマかと思うと急にコメディになったり、ホラーになったり、ストーリー展開が速いのも魅力的なんです」

6. コミック

「ヒノさんやイトウさんの作品は本当に怖い!しかも気が変になりそうなところが大好きです」

古今東西のありとあらゆるファンタジックな小説やコミックに親しみ、博学的知識を持つデル・トロ。日本の漫画では手塚治虫のような古典はもとより、木城ゆきとの『銃夢』や弐瓶勉『BLAME!』にもはまり、大友克洋の『童夢』を映画化しようと目論んだこともある。

残念ながら結果として実らなかったものの、それを機に大友と親しくなれたという。ホラー漫画では日野日出志や伊藤潤二のファンとのことだ。

7. ゲーム&フィギュア

「アニメやマンガ、ゲーム文化は欧米では低く見られがちですが、そういう作家が正当に評価されているのは日本だけだと思います」

デル・トロは、日本のゲーム作家がストーリーの重要性をよく理解していることを讃えている。「ミゾグチやオヅ、クロサワももちろん素晴らしい。でも、私はゲームクリエイターの小島秀夫さんや、フィギュア作家の韮沢靖さんたち現代のクリエイターと一緒にサケ・バーに呑みに行くのが楽しいんですよ」とも。

ちなみにデル・トロは、怪獣フィギュアも含む膨大なクリーチャー・グッズを蒐集した屋敷“荒涼館”を所有している。

8. ファンタジーの迷宮

「ファンタジーを現実逃避と呼ぶ人もいますが、正しく使えば現実を理解する手段として有効だと私は確信しています」

SFやファンタジーにはジュール・ヴェルヌの小説のように未来の可能性に期待を膨らませるものと、かたやH・G・ウェルズの小説のように人類に警告を発するものと2 種類ある、とデル・トロは説く。

そんな彼の作品には迷宮的要素が多分に含まれているが、「迷宮とは人が道を見失うためではなく、進むべき道を見つけるために作られたもの」といった発言からも、彼がウェルズ的アプローチからヴェルヌ的希望を示唆すべく努めていることも理解できるだろう。

9. お伽噺

「僕の作品すべてには、お伽噺のような趣きがあります」

H・P・ラヴクラフトらが創造したクトゥルー神話を愛してやまないデル・トロは、夜の闇の神秘性などを好みつつ、毎回卓抜したセンスでダークで悪夢的世界観を描出している。

「美術、照明、衣装、装置などすべてのパートのアーティストが一丸となって取り組んだ美しい世界観の中にこそ、私の映画のクリーチャーは存在してほしいと常に願っているのです。また、それがお伽噺をリアルに映えさせることにも繋がるんですよ」

10. 水

「私にとって水こそは愛の象徴です」

デル・トロはクリーチャーの血や汗、涎などの体液といった“水”の要素にこだわりながら、生物らしさを意識させていく。雨や蒸気などを背景に設けることも多い。

「水は変幻自在で器に合わせてどんな形にもなるし、さらには氷にも蒸気にもなります。実に柔軟で強力かつ優しい物質であり、それは即ち愛だと思います。愛する対象により形を変え、人種や肌の色、宗教、性別などに関わらず、形を変えながらすべてに適応するのです」

11. 愛と平等

「ファシズムは男性優位主義思想と同義語です」

異形のものをこよなく愛し、それゆえに偏見や差別といった事象にも敏感に反応するデル・トロ。2018年度のヴェネツィア国際映画祭審査委員長として、同映画祭のコンペティション部門ノミネート21作品のうち女性監督作品が1本しかなかったことを受けて、「目標は2020年までに男女の監督数を同数にすること」とも発言。同時に映画界の男女平等を求める運動“50/50 by 2020”も支持している。

『シェイプ・オブ・ウォーター』('17)が女性客に支持されたのも、こういった姿勢が映画そのものから醸し出されているからに他ならない。

ギレルモ・デル・トロ 人物相関図

メキシコ出身で、ハリウッドはもちろん、スペインやニュージーランドでの映画プロジェクトも経験し、日本のコミックやサブカルチャーにも造詣が深いデル・トロ。その仕事関係や、彼が影響を受けたクリエイターを辿ると、網の目のように世界に広がっている。

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●ディック・スミス(特殊メイク・アーティスト)
デル・トロの特殊メイクの師匠

●ペドロ・アルモドバル(監督)
「デビルズ・バックボーン」('01)をデル・トロと共同製作

●アレハンドロ・ゴンサレス・イニャリトゥ(『レヴェナント:蘇えりし者』('15)などの監督)

●アルフォンソ・キュアロン(『ゼロ・グラビティ』('13)などの監督)
デル・トロの友人。3人で製作会社『チャチャチャ・フィルムズ』設立

●カルロス・キュアロン(監督)
『チャチャチャ・フィルムズ』製作第1作『ルドandクルシ』('08)を監督(アルフォンソ・キュアロンの実弟)

●ヴィンチェンゾ・ナタリ(『キューブ CUBE』('97)などの監督)
監督作『スプライス』('08)をデル・トロが製作総指揮

●J・A・バヨナ(『ジュラシック・ワールド/炎の王国』('18)などの監督)
監督デビュー作『永遠のこどもたち』('07)をデル・トロが製作総指揮

●アンディ・ムスキエティ(『IT/イット“それ”が見えたら、終わり。』('17)監督)
監督作『MAMA』('13)をデル・トロが製作総指揮

●ピーター・ジャクソン(監督)
『ホビット』シリーズ3部作の脚本をデル・トロが担当(当初は監督も務める予定だった)

●チャック・ホーガン(小説家)
TVドラマ・シリーズ『ザ・ストレイン 沈黙のエクリプス』の原作をデル・トロと共同で執筆

●ギレルモ・ナヴァロ(撮影監督)
『クロノス』('93)『ヘルボーイ』('04)『ヘルボーイ/ゴールデン・アーミー』『パシフィック・リム』('13)など、デル・トロ監督作品の撮影監督を担当

●ロン・パールマン(俳優)
『クロノス』('93)『ブレイド2』('02)『ヘルボーイ』('04)『ヘルボーイ/ゴールデン・アーミー』('08)『パシフィック・リム』('13)などデル・トロ監督作品の常連俳優

●菊地凛子(俳優)
『パシフィック・リム』('13)出演(アレハンドロ・ゴンザレス・イニャリトゥ監督の『バベル』('06)にも出演)

●芦田愛菜(俳優)
『パシフィック・リム』('13)出演。デル・トロは撮影に際し、彼女に「僕のことは“トトロ”と呼んでね」と言った。

以下、デル・トロがリスペクトしているアーティストのごく一部
●レイ・ハリーハウゼン(特撮監督)
●本多猪四郎(監督)
●円谷英二(特技監督)
●手塚治虫(漫画家)
●永井豪(漫画家)
●大友克洋(漫画家)
●谷口ジロー(漫画家)
●伊藤潤二(漫画家)
●宮崎駿(監督)
●押井守(監督)
●日野日出志(漫画家)
●木城ゆきと(漫画家)
●弐瓶勉(漫画家)
●小島秀夫(ゲームクリエイター)
●韮沢靖(フィギュア作家)

PROGRAM INFO

BS10 スターチャンネルでは、11月に 《 コンプリート!映画監督ギレルモ・デル・トロ 》 として全10作品を放送します。また11月4日(日)よる9時からは、『パンズ・ラビリンス』を無料放送!
詳しくは、『コンプリート!映画監督特集』へ。
https://www.star-ch.jp/complete/

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