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病室から美女を覗き見──そこからすべては始まった…。島田荘司の傑作青春ミステリー小説を中国で完全映画化

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サスペンスとラブロマンスの融合

バイク事故で骨折した大学生カンが、入院生活の退屈しのぎに望遠鏡で豪邸を覗いていたら、ミステリアスな美女が犯罪らしき行為を犯す現場を目撃してしまいます。

このオープニングはアルフレッド・ヒッチコック監督の『裏窓』を彷彿とさせますが、『裏窓』が事件の謎解きに重きを置いていたのに対し、今回の作品では主人公が美女に「名前を知りたい、触れたい…」と狂おしいほど恋してしまい、彼女を追うごとに不可解な出来事が起きていく。つまり、サスペンスでありながらロマンスが主軸になり、2つの要素が巧みにミックスされています。

「恋は盲目」とはよく言ったもので、狂おしいほど恋をすると周りが見えなくなり、いけないことをしたり他人を傷つけてしまうこともあります。実はこの物語は、カン以外にも「あの女性が愛おしい」と思う人物がいるのがミソで、二重・三重に事件が起きていきます。そのあたりの構成が巧みですね。

この作品が面白い理由は、ベストセラーにもなった島田荘司のミステリー小説が原作であり、台湾のチャン・ロンジー監督が映画化していること。台湾の映画界にはエドワード・ヤンら名監督の志を継いだ若者たちがたくさんいて、いわば台湾は青春映画の宝庫と言っても過言ではありません。その中の一人がチャン・ロンジーなんです。

まだまだ監督作は多くありませんが『光にふれる』など素晴らしい青春映画を手がけていて、今回もアジアらしい青春ミステリー映画に仕上がっています。

(映画ライター 金子裕子)

時代の流れを反映させた展開

この作品の原作は島田荘司の同名ミステリー小説。島田荘司の小説というのは、ミステリーでありつつ青春ストーリーという要素が強い傾向にあり、今回の物語も主人公の恋心が軸になっていて、最終的には素敵なラブストーリーになっています。

ミステリーを見たつもりが、ほろ苦い青春模様が浮かび上がり「いいモノを見た」と思わせてくれます。叙情的な映画が好きな人にはたまらない作品に仕上がっていますよ。

美女シアを観察している主人公カンに、急に知らない人がSNSで友達申請してきて、カンのことをずっと見張ります。この謎の人物がここぞという局面で「今、○○したね?」と連絡を入れてくるのがすごく怖い! 1985年の原作小説を現代にアップデートさせた、SNS世代ならではのミステリーと言えます。

(映画ライター 杉谷伸子)

日本の小説を活かした中国映画の面白さ

この作品を見て感じたのは、日本の小説を基にした中国映画は日本人にとって非常に見やすいということ。昔の中国映画といえば“古き良き時代の中国”を前面に押し出した作品が主流で、雰囲気が暗い印象も否めませんでした。でも今の中国映画ではストーリーやテーマにおいて、日本でも韓国でも成立する多様性が取り入れられています。

中国映画には「ストーリーをどう映像で見せるか」を追求する独特のスタイルがあって、整合性のあるストーリーを追いたい人にとってフラストレーションがたまることも。それが今回は、明確な起承転結を持つ日本の小説が基になっているから、映像で表現する情感もとてもうまく描けている印象がありました。

だから中国映画から遠ざかっているという人も、今回のように日本の小説を原作にした作品を入口にすれば、新たな中国映画の魅力に気づくことができるのではないでしょうか。

1985年に書かれた島田荘司の小説を映画化するにあたって、チャン・ロンジー監督はかなり大胆なアレンジを施しています。例えば、80年代にはなかった携帯電話が登場したり、メッセンジャーのアプリを使って友達を作ったり。こうした現代的なアレンジによって、原作の持つ普遍性がよりくっきりとした輪郭で浮き立っています。

原作の物語はもちろんミステリーが中心なのですが、真相を追う青年の切ない恋心や情感が余韻として大きく残る──その余韻が見終わった後に切々と伝わってきますよ。

(映画コメンテイター 八雲ふみね)

movie info

作品名
『夏、19歳の肖像』(2017年)
監督
チャン・ロンジー
出演
ファン・ズータオ/ヤン・ツァイユー
公式サイト
http://www.maxam.jp/19/
2018年8月25日(土)ロードショー

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