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史上最大の作戦に最後まで抵抗した男──英国首相チャーチルの苦悩を克明に描いた歴史ドラマ

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チャーチル個人の精神的な戦いに焦点を当てた映画

この作品が描く時代は、第二次世界大戦後期の1944年。連合軍による“ノルマンディー上陸作戦”に対して、実は英国首相チャーチルが反対していたという裏話をまとめた物語となっています。

チャーチルといえば近年の映画では、戦線で孤立した30万人もの兵士を救出するため一般人まで駆り出したという『ダンケルク』などで英雄視されていますが、ノルマンディー上陸作戦の頃のチャーチルは鬱病を患っていたそうです。

当時の鬱病は、なったらなったで対処のしようがない、なんだかよく分からない病気として扱われていました。じゃあ当時の人々はどうしたかというと、酒に逃げる。つまりチャーチルは鬱病とアルコール依存症という二重苦を背負っていたわけです。

もちろんこの事実が教科書に書かれたことはありません。今回ほどチャーチルの実像に迫った作品は初めてなので、見る価値は大きいと思います。

(映画ライター よしひろまさみち)

懸命に支え続ける妻の存在

ウィンストン・チャーチルは現在のイギリスで“最も尊敬される政治家”に挙げられ、ビジネス書でも“敬愛されるリーダー”とされていますが、元ジャーナリストである彼には文学的な素養もあり、政治家を引退した後はさまざまな書物を執筆しノーベル文学賞にも輝いています。

そんな彼は“人間”をベースに物事を考える政治家。今まで決断してきた作戦において多くの若き兵士の命を失わせたことがトラウマとなり、その二の舞を犯してしまうのではないかという考えから、ノルマンディー上陸作戦で自ら決断できなくなってしまうのです。こうしたチャーチルの葛藤が物語の核となっています。

チャーチルといえば近年『ウィンストン・チャーチル/ヒトラーから世界を救った男』でゲイリー・オールドマンが特殊メイクで本物に寄せていましたが、この作品では72歳のブライアン・コックスがコックス本人そのままで演じています。

コックスはイギリスの名優で、元々は舞台を中心に活躍していた人。ローレンス・オリヴィエ賞も2度受賞しています。クセのある役を演じることが多い俳優で、今回も、市民からは好かれているけど政治家には嫌われているという、ちょっとクセのあるチャーチルをけっこう地の演技で見せています。

またこの作品でのチャーチルは、これぞ首相!という貫禄も、文才のある作家という文化的要素も、そしてある意味ダメ男のような一面も見られます。こうしたアプローチは今回が初めてだと思うのですが、チャーチルの人間的な弱さにフォーカスされています。

そんな彼を支えたのが、名女優ミランダ・リチャードソンが演じる妻クレメンティーン。チャーチルは愛妻家としても知られ、彼の名言集にも「私の人生の中で最善の決断は、妻を納得させて結婚まで持ち込んだことだ」という面白い言葉があります。

クレメンティーンは聡明な女性で、すべての面でチャーチルの支えになっていたそうです。この作品でも彼女の“内助の功”がかなり踏み込んで描かれていて、気が弱くなった夫を叱咤激励して頬を叩くシーンまで見られます。名優2人が演じるおしどり夫婦ぶりにぜひご注目ください。

(映画評論家 立田敦子)

現代に求められている指導者像

ゲイリー・オールドマンが演じた『ウィンストン・チャーチル/ヒトラーから世界を救った男』、チャーチルが直接は登場しない『ダンケルク』、そして今回の作品。ここ1年ほどでチャーチル関連の映画が3本も続けて公開されたことになります。

いずれの作品でも“言葉の魔術師”と呼ばれたチャーチルは言葉と誠実に向き合い、演説に力を込めています。それは、国民の不安を取り除くのも兵士の士気を高めるのも言葉の力だと信じていたから。今回の作品でも演説シーンにおけるチャーチルの言葉の強さが印象的です。

この人に付いていきたい!と思えるリーダー性や力強さが声によって導かれる。そこがチャーチルのスゴイところです。現代においてもそうした“言葉の力を持つ”リーダーが誕生してほしいという願望が、本作が作られた背景にあるんじゃないでしょうか。

(映画ライター 新谷里映)

movie info

作品名
『チャーチル ノルマンディーの決断』(2017年)
監督
ジョナサン・テプリツキー
出演
ブライアン・コックス/ミランダ・リチャードソン
公式サイト
http://churchillnormandy.ayapro.ne.jp/
2018年8月18日(土)ロードショー

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