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どこまでが現実でどこからが妄想か…フランソワ・オゾン監督が罠を仕掛ける心理サスペンス

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奥深いドラマを感じさせるフランソワ・オゾン監督の演出

この作品は、精神分析医ポールと付き合うヒロインのクロエが、その恋人と瓜二つである双子の弟ルイがいることを知り、2人の間で揺れ動くサスペンスとなっています。なぜ彼女が精神分析医と付き合うようになったかというと、お腹の痛みが精神的な原因によるものと診断され、治療を受けるうちに恋仲になったから。ところが「恋仲になったから他の医者に治療を受けてくれ」と言われ、さらに街でポールが別の女性と話している姿を目撃してしまう。果たしてその男性はポールなのかルイなのか探っていくうちに、おおよそ想像がつくように危険な展開になっていくのです。

個人的に好きというわけではありませんが、フランソワ・オゾン監督の作品と聞くと絶対見たくなります。登場人物に感情移入させるのではなく、逆にちょっと距離を置いて見させるのですが、それが映像として描かれていない奥のドラマを感じさせて、より怖くなってきます。それに、美術も衣装もこだわっていて映像が美しい! やっぱり主人公が美しくないと見ている方も自分を託せないので、そのあたりはまさに完璧ですね。

(映画ライター 杉谷伸子)

現実世界と妄想世界が入り交じる描写

フランソワ・オゾン監督の最新作であり、個人的には彼の最高傑作だと感じました。今でもいろんなシーンを思い出しては、その意味について考えることがあります。じゃあ何がそんなに面白いのかというと、どこまでが現実でどこからが妄想か、という線引きが一切なされていないところです。ヒロインのクロエが恋人のポールと過ごしている間、頭の片隅には双子の弟ルイのことがあり、ルイと過ごしている時は逆にポールのことが頭に浮かぶ。つまり彼女の頭の中には常に双子の存在が両立し、片割れと一緒にいることで常に双子と相対しているという状態を妄想しているわけです。それでいて、妄想が現実なのではないかと思わせる部分がたくさんあります。

タイトルに含まれている“2重螺旋”といえばDNA。もしかしたら「実はクロエのDNAは知っている」という物語なのかも。人間が生きている上で、頭や心では分からないこともDNAレベルでは分かっている、ということがテーマかなと感じたのです。そこまで観客を翻弄する物語を成立させる俳優たちの演技だったりオゾン監督の演出力に、終始やられっぱなし…本当にスゴい映画ですね。まるでオゾン監督が仕掛けた螺旋階段にぐるぐると迷い込んだように、見ているうちに煙に巻かれたような感覚になりますよ。

(映画コメンテイター 八雲ふみね)

想像力をかき立てられる映画

この作品では女性のセクシャリティにフォーカスが当てられていて、クロエがなぜ2人の男性に惹かれるのかというテーマが、彼女の根源的なセクシャル面がどう作用しているかを通じて描かれています。だからドキドキするようなシーンもたくさん登場します。

すんなりハッピーエンドを迎えないのがフランソワ・オゾン監督作に共通する特徴で、結末も観客に委ねることが多い。監督は「私は多くの作品において、現実を耐えるための想像を描いている」と語っています。今回も、どこまでがクロエの妄想なのか、本当に双子は存在するのか…いろいろな想像の可能性を広げる作品に仕上がっています。おそらく答えは1つではなく、映画を見た人それぞれで感じ方は異なるでしょう。でも、そのように様々に解釈させるヒントを監督はたくさん散りばめていて、特にラストは今まで信じてきたものがそうやって覆るの?結局どっちなの?と戸惑わされます。頭の中がクエスチョンだらけになってもう一度見返したくなるのですが、見返したとしてもさらに想像が混乱するばかりで、何度見ても新しい発見がある。やっぱりオゾン監督ってスゴいなと思わされます。

(映画ライター 新谷里映)

movie info

作品名
『2重螺旋の恋人』(2017年)
監督
フランソワ・オゾン
出演
マリーヌ・ヴァクト/ジェレミー・レニエ
公式サイト
https://www.nijurasen-koibito.com/
2018年8月4日(土)ロードショー

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