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コンプレックスを抱えた少女2人のかけがえのない友情を綴る青春ストーリー

#REVIEW
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コンプレックスと向き合う少女の透き通る歌声

この映画の主人公の志乃ちゃんは吃音に悩んでいて、初めての自己紹介で名前をうまく言えなかったことから、クラスに馴染めなくなってしまいます。ある日、彼女はクラスメイトの加代ちゃんと知り合うのですが、加代ちゃんにも歌が下手というコンプレックスがあります。2人は悩みを打ち明け合ううちに仲良くなり、そこからどんどん前に進んでいく、素敵な物語となっています。

志乃ちゃんと加代ちゃんがコンプレックスを隠すことなく一歩踏み出していく姿にとても勇気づけられるし、一方で2人が悩みもがく姿も人間臭くて魅力的。その中で、志乃ちゃんの歌声がとてもキレイに透き通っていて、「翼をください」を歌うシーンなんか鳥肌が立つほど見入ってしまいました。あの曲は私も高校の合唱祭で歌ったことがあり、また高校生活を送りたいな…という懐かしい気分になりましたね。さらに2人の熱い友情がうらやましくなったり、様々な感情が沸き上がる作品です。

(タレント 松井咲子)

心を揺さぶる、2人の女優の演技

感動ポイントとして特に挙げたいのが、志乃ちゃん役の南沙良と、加代ちゃん役の蒔田彩珠の若手女優2人の熱演です。2人とも大きな役は今回が初めてで、演技のテクニックは正直言ってまだまだ。でもそれは問題ではなく、むしろ若手俳優が初めての役に挑む時に特有のガムシャラさ、いわば“役を生きる”という瞬間が2人に見られます。その情熱が映像からほとばしり、とても心を揺さぶられました。

この作品では主役2人のコンプレックスを描くにあたって、隅々まで細かく注意が行き届いています。特に巧みだと感じたのは、現代の女子高生が会話ツールとして持っていて当たり前の携帯やスマホが一切出てこないこと。面と向かって相手に自分の言葉で気持ちを伝える、ということが物語のテーマなのに、スマホがあったらLINEやメールで思いを伝えられますよね。そうした描写を一切省きながら、現代の青春物語として成立させているあたり、商業映画デビューを果たしたばかりの監督にしては心憎い演出だなと感じました。

(映画ライター 金子裕子)

劇中で使われている楽曲の歌詞に注目

校舎裏の階段で加代がヘッドホンで音楽を聴きながらオンチな鼻歌を歌い、その姿を志乃が見つけるシーンがあります。そこで彼女が聴いている曲はザ・ブルーハーツの「青空」。「生まれた所や皮膚や目の色で、いったいこの僕の何が分かるというのだろう」といった歌詞に、“人間には元来、優劣なんかない”というメッセージを込めたであろうこの曲を加代に歌わせているのは、当然監督の意志でしょう。このシーンの後も様々な楽曲が流れ、さらに志乃と加代はバンドを組んでいろいろな曲を演奏するのですが、これらの曲の歌詞がストーリーと密接につながっています。劇中で使われている楽曲の歌詞に注目してほしいですね。

もう1つ、この作品で秀逸だと感じたのが、自然に恵まれたロケーション。静岡県の沼津で撮影されたそうですが、俳優たちが海や川と融合していて、2人が夕日に照らされているシーンは“マジックアワー”のように感じられる素晴らしい映像ですよ。

思春期の学生って、誰しも完全無欠ではなく、どこかしら不完全じゃないですか。この作品でも、不完全な2人がバンドという共同体を結成し、お互いが欠けたピースを補い合っていく。そんなところが何より素晴らしいと感じましたね。

(映画パーソナリティー コトブキツカサ)

movie info

作品名
『志乃ちゃんは自分の名前が言えない』(2017年)
監督
湯浅弘章
出演
南沙良/蒔田彩珠
公式サイト
http://www.bitters.co.jp/shinochan/
2018年7月14日(土)ロードショー