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先鋭化していく巨匠ゴダールと、彼のミューズとなった妻。2人の愛の顛末をユーモラスに再現

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ステイシー・マーティンの衣装の色に注目

この映画の原作は、言わずと知れた名監督ジャン=リュック・ゴダールの2番目の妻アンヌ・ヴィアゼムスキーが書いた自伝。ゴダールとアンヌがいかにして出会って恋に落ち、素敵な日々を過ごし破局を迎えるかを描いた作品です。面白いことに、見れば見るほど作中のゴダールがゴダールに見えなくなってくる。というのは、ゴダールとアンヌという“映画監督と女優”のストーリーを描いているのに、最終的には普遍的な男と女の物語へと完結するからです。出会って恋をして結婚し、いろいろあって別れる…それって世界中どこのカップルにもある話ですよね。だからこそ、ゴダールがチャーミングに見え、アンヌが魅力的な女性へと成長していく姿も素晴らしく映ります。

そうした見ごたえを支えているのは、やはりゴダール夫妻を演じるルイ・ガレルとステイシー・マーティン。特にステイシーが本当に可愛い! なかでも印象に残ったのが彼女の衣装。スタイルの抜群なステイシーは、1960年代パリのキュートな衣装を見事に着こなし、すべて真似したいと思えるほど。物語の序盤は黄色の衣装が目立つのですが、心理学によると黄色には「幼児性、希望に満ちあふれている」という意味があるそうです。一方、アンヌがゴダールに従わず自分の意志で行動を選ぶようになると、「自己主張の色」とされる赤い服を着るようになります。衣装の色によってアンヌの心を表現しているのが、とてもうまく作られている。そういったニュアンスの込められた衣装をステイシーがしっかり着こなしているのが素敵ですね。

(映画コメンテイター 八雲ふみね)

ゴダールを女性の視点で描いた作品

ゴダールは映画監督として神格化された存在ですが、彼の妻でありミューズであったアンヌは、ゴダールのことを間近で見てきた人。つまり“女性視点”でゴダールを描いているのが、この作品の最大の見どころとなっています。ミシェル・アザナヴィシウス監督は、アカデミー賞に輝いた『アーティスト』でサイレント期のハリウッド映画を再現しています。この、いわば“パロディ”精神がアザナヴィシウス監督の特質で、『グッバイ・ゴダール!』もゴダール映画のパロディのようになっています。そこを面白いと思えるかどうかで評価が分かれると思いますが、コメディ映画として楽しめる作品となっているのは確かです。

(映画評論家 立田敦子)

「巨匠」「中年男性」としてのゴダール

この作品で描かれている時代のゴダールは、映画作家としての方向性を切り替えるべきかどうかという迷いの最中にありました。そして目の前には一回りも年下の恋人アンヌがいて、彼女の前では弱さをさらけ出す。つまり、前衛的な若き巨匠としても、老いを感じ始めている中年男としても、転換期にあったゴダールの素顔を赤裸々に描いた実録ドラマとなっています。これまで様々な形でゴダールが考察されてきましたが、ここまでプライベートな側面に迫ったものは初めてではないでしょうか。映画ファンのみならず、これからの人生をどうしようか迷っている30代後半の人たちも共感できる内容だと思いますよ。

ヌーベル・ヴァーグを牽引した同時代の巨匠たちが亡くなった中、ゴダールは今年で87歳。当人が健在なのに、どうしてこんなにスキャンダラスな伝記映画が作れるのか? 実はゴダール本人はこの作品に対して「愚かなアイデアだ」と怒ったそうですが、そのゴダールの叫びがオリジナルポスターに引用されているのです。フランスのエスプリというのは容赦がない!と痛感すると同時に、フランスの懐の深さを感じさせますね。

(映画ライター 清藤秀人)

movie info

作品名
『グッバイ・ゴダール!』(2017年)
監督
ミシェル・アザナヴィシウス
出演
ルイ・ガレル/ステイシー・マーティン
公式サイト
http://gaga.ne.jp/goodby-g/
2018年7月13日(金)ロードショー

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