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年齢を重ねた今こそ分かる、元気な老人映画の面白さを山田五郎が力説
経済的に満たされた老人たちの現実を描く『グランドフィナーレ』
今回私が選んだのは、元気な老人たちが主人公の映画です。現代の高齢化社会において、老人問題を無視して生きてはいけません。そこで今回は、旧共産圏、西ヨーロッパ、アメリカという3つの文化圏からオススメの老人映画をチョイスしました。
まず最初は『グランドフィナーレ』。スイスの高級保養リゾートホテルに集まったセレブたちが、ただ死ぬ瞬間だけを待っている。そんな彼らがもう一度人生を考え直そうとしていく物語なのですが、パオロ・ソレンティーノ監督によるヨーロッパ映画らしい映像美がキレイ!老人たちがプールに寝そべっているシーンとか、何でもない映像にどこか虚しさや退廃的な死の香りが漂っている。こうしたルキノ・ヴィスコンティ監督ぽい深みは、やっぱりアメリカ映画には出せないものですよね。
舞台となる高級保養リゾートには何でも揃っているけど、逆にやることが何もない。世界的音楽家だった主人公が友達と交わす会話も「昨日オシッコがちょっと出た」とか病気自慢しかないのがリアルでした。いくら「年を取っても若いものには負けない!」と思っても、こういうものなんですよ。なまじっかお金を持っていると、この映画のような老後になるのかなと痛感しました。
ソレンティーノ監督は登場人物たちほど年を取ってないから少しはイイ話にしたいけど、演じているマイケル・ケインたちは“お金を持って年を取っていく”ことがどういうことか分かるわけですよ。だから監督がどれだけイイ話ふうにしたくても、何ともいえない腐臭が演技から漂ってくる。そのあたりは年を取ってから見ることで分かるものですね。これまで「年を取ってお金がないとミジメだな」と思っていたけど、この映画を見て心が改まりました。年金を減らされて怒ったり、何かしら不幸せなことがあった方が、むしろ老後はイキイキとできるんじゃないでしょうか。
“人生の最後の1滴”の旨みが凝縮された『人生に乾杯!』
年金を削減されて怒ったハンガリーの老夫婦が銀行強盗を働き、明日なき逃亡を続ける。言ってみれば、旧共産圏の老人版“ボニー&クライド”。ボニー&クライドを主人公にしたハリウッド映画『俺たちに明日はない』が作られてから40年後に、旧共産圏でこのような映画が作られたというのも趣き深いし、「この手があったか!」と目からウロコが落ちましたね。若い連中が「明日はない」と言うから意味があるのに、本当に未来のない人たちが“明日なきこと”をするのがスゴイ! 主人公夫婦の夫は80歳ぐらいなのですが、旧共産圏の激動の歴史を生き抜いてきた人たちなわけ。そんな老人に若造の刑事たちがかなうわけがない。個人的にすごく勇気づけられましたね。
この作品の邦題は『人生に乾杯!』となっていますが、原題には『コップの中の最後の1滴』という副題も付いているんですよ。お茶好きはよく知っていると思いますが、ポットの中から出てくる最後の1滴は“黄金のしずく”と呼ばれていて、旨みが凝縮された美味しい1滴。この映画も“人生の最後の1滴”が最も美味しいんじゃないかと教えてくれる作品ですね。
若造に負けるわけがない!という気概がカッコイイ『RED/レッド』
「年寄りが若者より強い」というテーマをとことんエンターテインメント寄りに描いた作品です。CIAとかMI6を引退した伝説的スパイたちが主人公なのですが、冷戦という実戦時代を生きてきた彼らが、現役の若造に負けるわけがない! しかも彼らは60代ぐらいで、まだまだ体が動く年齢なんだから負ける気がしませんよね。
この映画は主演のブルース・ウィリスもイイけど、やっぱり脇の俳優たちがイイんです。モーガン・フリーマンにジョン・マルコヴィッチ、さらにアーネスト・ボーグナインなんかも出てきます。なかでも一番良かったのが『クィーン』のオスカー女優ヘレン・ミレン。いかにもイギリス人女性という淑女なタイプの彼女は、我々世代で言うと『サンダーバード』のレディ・ペネロープみたいな感じ。品のあるオバアサンがマシンガンをぶっ放すのがカッコイイ! 旧共産圏を舞台にした『人生に乾杯!』とは真逆のエンターテインメントですが、「若造に負けるわけがない」という根本のテーマは同じですね。
PROGRAM INFO
- 番組名
- マイチョイス:山田五郎
- 放送映画
- 『RED/レッド』(2010年)
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