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青春映画の俊才マーク・ウェブ監督が、ニューヨークの今と青年の成長を描く
映画の中で表現されるNYの変遷
マンハッタンのロウアー・イースト・サイドに住む、大学を卒業したのに仕事にも就いていない青年トーマスが主人公。これからどうしようか考えていた彼は、ある人物に出会います。その人物を介して、苦労知らずと思っていた両親の意外な過去に触れて、自分の進むべき方向を見つけていくというお話です。本作の脚本は2005年に執筆され、ハリウッドの“ブラックリスト”(映画化されていない優秀な脚本のこと)に選ばれていました。
カルチャー発信源としてのニューヨークのピークは2000年までで終わっているとされていて、物語の年代となる2015年も斜陽期と言えます。このニューヨークをマーク・ウェブ監督がどう描いているかというのもポイントなのです。例えば、父親が開いたパーティーで「2番街のデリもブティックになっちゃったね」というセリフが聞かれます。このデリとは、『恋人たちの予感』でメグ・ライアンが一人オーガニズムに走るシーンで有名なカッツ・デリカテッセンのこと。今はブルックリンに移ってしまい、跡地にはブティックが建っています。また、トーマスの父親が経営する出版社も、かつての栄光の面影はなく斜陽期。そんな中、トーマスはニューヨークを出るのか、それとも残るのか。残るとしたら何をするのか。そうしたストーリーが今のニューヨークと非常にリンクしているので、ニューヨークに興味がある人もない人もぜひ“街の変遷”に注目してください。
(映画ライター 清藤秀人)
主人公を演じたカラム・ターナーほか3人の俳優
この映画のオススメポイントは、3人の男優です。主人公トーマスを演じているのは、今年秋公開の『ファンタスティック・ビーストと黒い魔法使いの誕生』でニュートの兄役に抜擢されたカラム・ターナー。ハイモデルを務めるほどスタイルもいい英国イケメンで、これからグイグイ来るであろう若手です。そしてトーマスの父親を演じているのも英国俳優のピアース・ブロスナン。5代目ジェームズ・ボンドだったブロスナンがいい具合の壮年に枯れてきていて、とてもキュンとしました。さらに、ヘミングウェイを彷彿とさせる謎の作家を演じているジェフ・ブリッジス。ちょっとした人生のヒントを口にする時に葉巻をくわえる姿が、とても堂に入っています。このタイプの異なる素敵な男性3人を見るだけで、目の保養になりますよ。
アッパーサイドからダウンタウンまでニューヨークの様々な名所が登場するのですが、マーク・ウェブ監督によると「ニューヨークをリアルに描いたものではない」とのこと。どういうことかというと、ウィスコンシン州に生まれ育ったウェブにとっての、オシャレでカッコイイ“憧れのニューヨーク”を描いたのです。我々日本人にもニューヨークへの憧れがあるでしょうが、そうした憧れを具現化してくれているので、世界中のニューヨークファンが満足できると思います。
(映画ライター 金子裕子)
世代を問わず共感できる人間ドラマ
父親が若い女性と不倫している姿を目撃した主人公トーマスは、仕事に成功しカッコイイ父親が家族を裏切っていた、という事実に傷つきます。そうした裕福な親に対する反発や、彼が自分の道を見つけようとする模索がテーマになってくるのですが、それだけで終わらないのがこの映画の面白いところ。トーマスが不倫相手の女性を通じて、両親やその世代の生き方にまで深く踏み込んでいく、という人間ドラマになっています。トーマスの両親は、ニューヨークのいわゆる“いい時代”を生きてきた人たち。彼らがどんな恋愛をしてどのように人生を選び取ってきたのか、という過去を知ることでトーマスも影響を与えられていく。そのあたりの描き方が面白いなと思いました。青春映画ではありますが、主人公の両親世代にも訴えかけてくる映画ですよ。
ニューヨークというのは、アメリカでありながら、アメリカのどの街にも似ていない特殊な街。ウディ・アレンが「マジカル・シティ」と称しているのですが、ニューヨークは仕事でも恋でもショービジネスでも“何かマジカルなこと”が起きる街ということです。つまり、現代を舞台にしていても、リアルすぎない寓話を描きやすい。この映画でも、そうしたニューヨークのマジカルな部分が随所に描かれていて、とても素敵。まさに現代の寓話と呼べる作品です。
(映画評論家 立田敦子)
movie info
- 作品名
- 『さよなら、僕のマンハッタン』(2017年)
- 監督
- マーク・ウェブ
- 出演
- カラム・ターナー/ケイト・ベッキンセイル
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